古くて新しい中医薬の魅力
昭和51年に日本での保険医療に採用された漢方薬ですが、初めて中国から日本に伝えられたのは5世紀~6世紀頃と言われています。
以来、中国と日本の漢方薬はそれぞれ独自に発展していくわけですが、江戸時代には日本の漢方薬は「傷寒論(しょうかんろん)」と「金匱要略(きんきりょうやく)」を教科書として発達してきました。
「傷寒論(しょうかんろん)」は後漢の末期に、張仲景が伝染病で一族をたくさん失った為、記したものとされています。その中には伝染病に対処する方法が数多く書かれています。
そのような伝染病から体を守る漢方の考え方を紹介します。
中医学が考える免疫システム
「正気の不足」と「邪気の強さ」
中医学では身体を構成し生命活動を維持するのに必要な物質と人体の抗病能力を正気(せいき)と呼んでいます。また、この正気のバランスを乱し、病気にしてしまうのを邪気(じゃき)と呼びます。
このため、病気になる原因には、邪気が強すぎる場合と、正気が弱すぎる場合の二つのケースが考えられます。
★したがって中医学で病気を改善するには★
まずその病気の原因が
● 正気の不足(抵抗力の低下)にあるのか
● 邪気(病原菌など)が強すぎて引き起こされたのか
を判断する必要があります。
身体を病気から守る衛気(えき)
衛気の根源は腎にある
正気の中でも、病気から身体を守る働きのある気を衛気(えき)と言います。
衛気(えき)は、いくつかの段階を経て熟成され、邪気と戦い、私たちを病気にならないようにしたり、病気を治すことができるようになります。
腎には精と呼ばれる生命活動の根源となる物質が蓄えられています。この精は両親から受け継いだもので、生長、発育、生殖、老化などに関与しています。この精が基礎となって原始的な衛気(えき)が作られます。
したがって、生まれつき病弱であったり、過労や高齢のため体力が低下すると、衛気(えき)の材料である腎精の不足から衛気(えき)を作ることができなくなります。
中医学でいう腎には腎臓、副腎のほか、骨、骨髄、胸腺、脳下垂体などの働きも含まれており、現代医学ではこれらは免疫細胞の生成や調節と密接な関係があるとしています。
足腰がだるい、骨が弱い、精力減退、排尿困難などの症状が見られる場合は、腎を強化する補腎薬と呼ばれる漢方薬で、腎精(じんせい)を補う必要があります。
衛気は脾(胃腸)から栄養を受ける
現代医学でも脾臓は免疫と密接な関係があると考えられています。中医学でいう脾は脾臓のほかに胃腸の働きも含まれています。
腎で生まれた原始的な衛気(えき)は脾(胃腸)から栄養を受け取ることにより、強い衛気(えき)になることが出来ます。
食欲不振、食後お腹が脹る、食後眠くなる、軟便、手足にカが入らないという方は脾の働きが低下している可能性があります。
また、食事を充分に摂ることが出来ないと病気によって破壊された組織をなかなか修復することができないので、病気や傷が治りにくくなります。
中医学でいう気にはエネルギー、機能という意味があり、脾の機能が低下した状態を脾気虚(ひききょ)と言います。
多くの邪気は皮膚や粘膜から侵入する
栄養に満ち鍛えられた衛気(えき)は、いよいよ邪気と戦うべく全身に運ばれます。
多くの邪気は皮膚から、あるいは鼻などの粘膜から身体の中に侵入してきますから、衛気(えき)はこのあたりを中心に警備する必要があります。
衛気は肺の働きで全身に運ばれる
肺には宣発粛降(せんぱつしゅくこう)という、気を全身に運ぶ働きがあります。また、皮膚や鼻と密接な関係があり、衛気(えき)をコントロールする指揮官の役目をになっています。
この働きが低下すると、汗をかきやすい、カゼをひきやすい、息切れ、肌が弱いなどの症状が出てきます。
逆に言えばこれらの症状がある場合は、肺の機能が低下しています。
このような状態を肺気虚(はいききょ)と呼びます。
脾気虚(ひききょ)や肺気虚(はいききょ)などには、気を補う補気薬と呼ばれる漢方薬で改善します。
学級閉鎖がない中国
日本では風邪やインフルエンザで生徒の欠席数が急増すると、感染拡大防止の為、学級閉鎖を行います。
中国の学校では、風邪、インフルエンザが流行すると、漢方の煎じ液を生徒ののどにスプレーして、病気が広がるのを防いでいるそうです。
また、中国の家庭ではある漢方生薬が常備されており、風邪が流行りそうな季節になると、うがいや手洗いに日常的に使ったり、飴やお菓子にして食べたり、とてもポピュラーな存在のようです。
そんな習慣のおかげか、中国では学級閉鎖というものがほとんどないそうです。
(叢法滋著「免疫を調節する生薬のいろいろ」より一部引用)